エピソード”00 「始まり」

雑然とした部屋の中。出発の準備による喧噪の中、一人準備を終えた私は何気なく視線を
部屋の奥へと移す。
そこにはギルドの象徴であるギルドストーンがある。数ヶ月前に設置された物だ。
その時のことが、昨日のことのように思い出される。
ふと、私と同じくストーンに視線を注ぐ者に気付いた。
ギルド「Sosaria of Ghibline」マスター、”Athene”Ryukoである。
Ryukoもこちらの視線に気付いたらしく、私と目が合った。その目は、今し方の私と
同じく、「あの日」のことを思い出していたことを、如実に示していた。
そう、ギルドが出来た日のことを。

 「準備はいい?行くわよ」
何もない部屋に凛とした声が響く。
ホール建設が終わったばかりの、まだ新しい木の匂いがする中に、三人はいた。
 ここがギルドのメンバーに初お目見えしたのは昨日のことだ。私も他の大部分のメンバーと
同じく、ホールの存在を知らされておらず、驚きを隠せなかったのであった。
 しかし、昨日とはうって変わって今部屋にいるのはたった三人。
Ryuko、KOOIN、そして私の3人である。それほどメンバーが多いわけではないが、
それでもやはり都合のつかないこともある。
そんな訳もあって、私たち三人は取りあえず、今し方設置したばかりのギルドストーンの前で、
ギルド結成の儀式を行っていた。

 「・・・に加え、ギルドの規律を守る事、ギルドの名誉を守る事、ギルドに忠誠を誓う事。
以上のことを遵守し、マスターに絶対の忠誠を誓えるか?」
 「はっ。この刀に代えましても」
と、腰から愛用の刀を抜き放ち、掲げる。
その答えに満足そうに頷き、Ryukoが言葉を続ける。
「それではSoGギルドマスターの名において、今日、今この場において汝YUKIMURAを
SoGギルドメンバーとして認める」
それを聞き、私は言い様のない高揚感にとらわれる。
が、その間もなく、Ryukoの言葉が続く。
「・・・それと共に汝をSoG”SAMURAI”の名を与える。」
突然の、予期せぬ言葉に動揺を隠せなかったが、辛うじて敬礼、後ろに下がることが出来た。
まだ、駆け出しの剣士の私が、その様に認められる事は、嬉しくもあり、同時に重圧でもあった。
しかし、不思議と不安はなく、むしろ、それを楽しむ風な自分が、以外であった。
やはり、これも自分だけでなく、これから始まるギルドの勢いも手伝っているのだろう。
そして、引き続いてKOOINの番が始まった。

「・・・よって貴殿を我がギルドの一員として認め、同時に”Centurion”を名乗ることを許す」
普段見せないような真剣な面もちでKOOINが畏まって、礼をする。

 ギルドの立ち上げは、終わった。
まだやるべき事は沢山残ってはいたが、今はそのことを忘れて良い時だった。
しかしそれも束の間の一時であることを私たちは知っていた。すぐに気持ちを切り替える様に
Ryukoが元気な声を出す。
「さあて、明日から忙しくなるわよ!覚悟は良い?」
私はKOOINと顔を見合わせ、同時に力強く頷く。
「行くわよ!」

「OK!」
部屋のあちこちから返事がする。あの時の返事はたった二人分でしかなかったものが今や
その何倍にもなっている。
そして準備を終えたメンバーが次々とホールを出て行く。残ったのは三人。
Ryuko。KOOIN。そして私。
ギルド立ち上げのあの日から数ヶ月。忙しく過ごしている内にいつの間にかメンバーも増え
ギルドの規模も大きくなり、ギルド所有のタワーまで建つようになっていた。
 しかし私は忘れない。あの日あの時。家具も何もない部屋。あったのはわずかな資金。それと、
たくさんの希望。

そして、外からの呼ぶ声に答えながら、私たちは部屋を後にする。
新たな冒険を求めて。

To be Continued...